少子高齢化社会と法・政治
研究の背景
日本は、2007年に世界で初めて「超高齢社会」(65歳以上人口が全人口の21%以上を占める社会)に突入しました。その後も高齢化率は上昇を続け、2022年には29%に達しています。高齢化率の上昇とともに社会保障費が増加する一方、若年人口は減り続けており、社会保障制度の将来が危ぶまれるようになっています。
少子化・高齢化は、日本に限らず、多くの先進工業国が直面する問題でもあります。ただし、各国の対策は一様ではありません。各国で少子化・高齢化問題がどのようにフレーミングされ、どのような対策が採られ、政党や団体は政策決定にどのようにかかわっているのでしょうか。また、歴史的・文化的条件の差異は政策にどのような影響を与えているのでしょうか。本ユニットでは、政治学と法学の協働を通じて、こうした問題に取り組みます。
研究の内容
少子化・高齢化問題を論じるためには、学問分野横断的な視点が求められます。社会保障政策のみならず、家族政策、財政政策、移民政策と結びつけて、多角的に分析する必要があります。また、対策の決定過程を明らかにするためには、政治学・行政学的アプローチが欠かせません。本ユニットでは、比較政治学、行政学、社会保障法、家族法、労働法の研究者が、国内外の専門家と協働しつつ、以下の4つの研究を進めます。
- 先進工業国における少子化・高齢化対策の展開と、これに伴う福祉国家変容を分析します。政策決定過程における政党や団体の役割に注目しつつ、様々な取り組みが見られるヨーロッパ諸国や、急速な高齢化に直面している東アジアの国々と比較することで、日本の政策的・政治的特徴を明らかにすることを目指します。
- 政治的指示の実現に向けた官僚制への要求が強まる一方、少子高齢化という課題は、利用可能な資源、個人の基本的生への関与という両面から応答限界があります。行政はどこまでの対応が可能/適切か、どうすれば国民の納得が得られるのかに関し、日本の官庁現場が直面する課題を先進諸国のそれと比較することで、今後の政策選択肢を提示することを目指します。
- 急速な少子化・高齢化の進行は、年金・医療・介護をはじめ、社会保障制度にも大きな影響を及ぼしています。そのような人口見通しの下で、今後も持続可能な社会保障制度の在り方を、社会保障法学の観点から検討し、具体的な政策選択肢の提示を目指します。
- 民法が定める婚姻や親子に関する諸制度の内容・運用の検討を踏まえ、その背後にある家族やライフスタイルのあり方を分析することで、少子化・高齢化問題の要因を探り、具体的な政策提言に取り組みます。
ユニットリーダー紹介
近藤正基(京都大学法学系(公共政策連携研究部)教授、政治過程論)
これまでは、主にドイツを事例として、福祉政策の展開とその決定過程を分析してきました。本ユニットでは、高齢化対策としての福祉国家改革とその政策決定過程について、日独を含めた比較事例分析を行います。本ユニットの研究と関連する主要業績として、『現代ドイツ福祉国家の政治経済学』(ミネルヴァ書房 2009年)、『ドイツ・キリスト教民主同盟の軌跡』(ミネルヴァ書房 2013年)、「メルケル政権の福祉政治」『海外社会保障研究』第186号(2014年)4-15頁、「ドイツにおける付加価値税改革の政治過程」(高端正幸・近藤康史・佐藤滋・西岡晋編『揺らぐ中間層と福祉国家』(ナカニシヤ出版 2023年)第10章)。