京都大学大学院法学研究科附属 法政策共同研究センター

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人工知能と法

研究の背景

政府の提唱する「サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」であるSociety 5.0においては、自動運転システムや自律飛行ドローンシステム、様々なサービスロボットシステムや高度な医療支援システム、さらには家や街全体が高度に自動化されたシステムと融合するスマートホームやスマートシティなど、様々な形で人工知能技術を活用した革新的なテクノロジーが我々の社会全体に浸透していくと考えられます。

また、このような社会変化に伴って生じるリスクを適切にマネジメントしつつ、イノベーションの果実を最大化するための、アジャイル・ガバナンスをはじめとする新たなガバナンスモデルの提唱や、それを実現するための法制度の検討も、国内外を問わず着々と進んでいるところです。「人工知能と法」ユニットでは、人工知能技術の急速な発展に伴って日々生起する新たな法政策的課題に対し、学際的・国際的なアプローチを活用して研究し、具体的かつ効果的な解決策を示すことで、Society 5.0における新たな法のすがたに関する議論をリードしていきたいと考えています。

研究内容

「人工知能と法」ユニットでは、各領域の法学者のみならず、人工知能研究者・経済学者・心理学者・ロボット工学者・哲学者・文化人類学者・システムエンジニアなど、様々な学問分野の研究者と協働して学際的な研究を推進してきました。また、連合王国・オーストリア・スイス・アメリカ合衆国・オーストラリアなどをはじめとする各国の研究者達と協力しながら、人工知能と法をめぐってグローバルに生起する共通の法政策的課題に対し、文化的多様性を尊重しつつ解決していくための方法について、国際的な研究を推進してきました。同時に、人工知能技術の社会実装を進める中で法政策的課題に直面している第一線の実務家と協働しながら、現実の社会課題の実践的解決につながる法理論・法政策の提案に努めてきました。

「人工知能と法」ユニットが、学際的・国際的なアプローチを用いて取り組んでいる法政策的課題としては、①人とロボットとの協調動作や交流が人間の認知機能や意味理解、意思決定に及ぼす影響を踏まえた、新たな法ガバナンスのあり方とそのための法制度(ヒューマン・ロボット・インタラクションと法)、②複雑化し巨大化するグローバル企業において、構成員のプライバシーを尊重しつつ効果的なコンプライアンスを実施するための人工知能技術の活用方法(コンプライアンスのDX化)、③Society 5.0において出現することになる、複雑なシステムが複数結合した巨大なシステム(System of Systems)の効果的なリスクガバナンスのための新たな法ガバナンスのあり方とそのための法制度(SoS法ガバナンス)、④アジャイル・ガバナンスを新技術開発現場で活用し、法を「共創」するための方法論の開発(実践的アジャイル・ガバナンス)、⑤デジタル社会を支えるインフラとしてのデータ・ガバナンス、⑥人工知能に関する法のグローバルな展開を一覧可能とするための法カタログの作成など、多岐に亘っており、今後も様々な形で展開していく予定です。

ユニットリーダー紹介

稲谷龍彦(京都大学法学系(大学院法学研究科)教授、刑事学)

専門はグローバルな企業犯罪対応及び先端科学技術と法(特に刑事司法)。理化学研究所AIP客員研究員及びIPA- DADCアドバイザリーボード兼任。デジタル臨時行政調査会作業部会委員。経済産業省「Society 5.0における新たなガバナンスモデル検討会」委員。本ユニットの研究に関連する主要な業績として、『刑事手続におけるプライバシー保護–熟議による適正手続の実現を目指して』(弘文堂 2017年)、「技術の道徳化と刑事法規制」(松尾陽編『アーキテクチャと法』(弘文堂 2017年)第4章)、「人工知能搭載機器に関する新たな刑事法規制について」法律時報91巻4号(2019年)54-59頁、「ポスト・ヒューマニズムにおける刑事責任」(宇佐美誠編『AIで変わる法と社会』(岩波書店 2020年)第6章), 「デジタル刑事司法は刑事司法か?: Criminal Justice by Design」法律時報94巻3号(2022年)46-51頁, 「Society 5.0における新しいガバナンスシステムとサンクションの役割(上)」法律時報94巻3号(2022年)98-105頁, “Moralizing Technology” and Criminal Law Theory (Georg Borges & Christoph Sorge eds. Law and Technology in a Global Digital Society, 27-49, Springer 2022), “Legal Being”: Going Beyond the Debate of Legal Personhood for “Intelligent” Non-Humans (Woodrow Barfield et al., Cambridge Handbook on Law, Policy, and Regulations for Human-Robot Interaction, forthcoming)などがある。

特任教授紹介

羽深宏樹(京都大学法学系(大学院法学研究科)特任教授)

弁護士(日本・ニューヨーク州)。前経済産業省ガバナンス戦略国際調整官(〜2022年1月)。デジタル時代におけるイノベーションのガバナンスをテーマに、法規制、企業ガバナンス、市場メカニズム、民主主義システム等を統合したガバナンスメカニズムのデザインを研究している。経済産業省が公表した「GOVERNANCE INNOVATION」報告書(Ver.1(2020年)、同Ver.2(2021年))、および「アジャイル・ガバナンスの概要と現状」報告書(2022年)の執筆を主担当。2020年、世界経済フォーラムGlobal Future Council on Agile Governance及びApoliticalによって、「公共部門を変革する世界で最も影響力のある50人」に選出される。東京大学法学部卒(BA)、東京大学法科大学院修了(JD)、スタンフォード大学ロースクール修了(LLM, フルブライト奨学生)。

柴田高広(京都大学法学系(大学院法学研究科)特定教授)

東京大学工学部航空宇宙学科を修了後、シンクタンクに入社し、社会安全・産業安全を中心とした幅広い分野でのリスクマネジメント業務に産官学の観点から長年従事。ISO31000「リスクマネジメント」の日本代表エキスパート。「技術イノベーションとリスクガバナンスのあり方」をライフワークとして規制のあり方・制度設計に関する調査研究・コンサルティング業務を行っている。現在は特に社会・産業におけるAIリスクとの共生の観点から研究活動を行っている。