京都大学大学院法学研究科附属 法政策共同研究センター

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医療と法

研究の背景

医療技術の進歩は、私たちの生活や人生のあり方に大きな影響を及ぼしてきました。そのため、統合イノベーション戦略推進会議は、「バイオ戦略2019」(令和元年6月11日)において、「社会が新技術を理解し受け入れ、研究者も社会の理解を得ながら世界的に最先端の研究を安心して行うためには、倫理的・法的・社会的課題(ELSI)について専門家による深みのある科学的な議論と市民の参画が必要」と指摘しました。その後のCOVID-19の感染拡大は、医療への科学技術の応用の重要性とその法的統制の必要性を浮き彫りにしており、専門家と市民参画を含む政治の領域との関係性の整理の必要性は高まっています。本研究ユニットでは、法学・政治学の観点からこれらの課題に取り組み、全国規模、さらには、グローバル規模での知識集約型社会へのパラダイムシフトに貢献することを目指します。

研究の内容

本ユニットでは、①医療情報法、②生命・医療倫理と法という、2つのコア・テーマを設け、ユニット・リーダーの統率のもと、相互の連携に留意しつつ、チームで研究を進めてまいります。また、将来的には、これらに加えて、③社会保険を中心とした医療制度論も本ユニットの研究の射程に入れてまいります。

①医療情報法の分野では、大学院医学研究科附属医療DX教育研究センター(ユニット・リーダーが同センター教授も兼任)との連携のもと、医療情報の利活用の問題を手始めに、法学・医学両面の実務家とも協力して、現行制度の理論的分析、実務上の応用、将来的な制度設計を進めます。この分野では、AIの活用も大きな課題となりつつあり、AIと法ユニットとの連携も密にしながら、民事責任の問題も視野に入れて取り組みます。

②生命・医療倫理と法についても、大学院医学研究科人間健康科学専攻や大学院文学研究科の応用倫理学分野と連携しつつ、伝統的な医事法においても重要分野として位置付けられてきた、生命・医療倫理と法の問題について、本ユニットでも従来研究を進めてきたケアの観点など、現代的な切り口から研究をさらに深化させます。

③医療制度論については、大学院医学研究科社会健康医学専攻との協力の下、疫学や医療経済学の知見も踏まえながら、少子高齢化社会において喫緊の課題となっている社会保険制度の見直しや、COVID-19感染拡大でも注目された、緊急的事象の下での医療に関する意思決定のあり方について提言をしていくことを目指します。

ユニットリーダー紹介

山田哲史(京都大学法学系(大学院法学研究科附属法政策共同研究センター)教授)

大学院医学研究科附属医療DX教育研究センター教授を兼任(ダブル・アポイント)。従来は、憲法学を専攻し、グローバル化時代における公法概念や、情報プライバシー権の保障のあり様について研究してきた。本ユニットとの関係では、医療情報の利活用を中心に、グローバルな枠組みも含めて、その規律のありようについて検討を始めている。関連業績として、『グローバル化と憲法:超国家的法秩序との緊張と調整』(弘文堂、2017年)、「感染拡大防止とプライバシー保護――情報通信技術を通じた感染拡大防止をどう統制するか」大林啓吾編著『コロナの憲法学』(弘文堂、2021年)211-222頁、「グローバルな感染症対応:その意義と限界」公法研究84号(2023年)掲載予定などがある。