京都大学大学院法学研究科附属 法政策共同研究センター

menu

シンポジウム「法の支配のデジタル化」の議事録を掲載しました。

研究会名等: 法の支配のデジタル化 ~Agile Governance, Data Free Flow with Trust, Value of Statistical Life, Regulatory Sandbox

研究ユニット:人工知能と法
ユニットリーダー: 稲谷 龍彦(京都大学大学院法学研究科教授)
開催日時:2024720日(土)13:0018:00
作成者: 陸 春松(京都大学大学院法学研究科附属法政策共同研究センター特定助教)
生田 裕也(京都大学大学院法学研究科附属法政策共同研究センター特定助教)
田中 悠美子(京都大学大学院法学研究科附属法政策共同研究センター特定助教)
陸 新超(京都大学大学院法学研究科附属法政策共同研究センター特定研究員)

概要

 2024720日(土)に、京都大学大学院法学研究科附属法政策共同研究センター及び渥美坂井法律事務所外国法共同事業・プロトタイプ政策研究所の共同主催(東京大学先端ビジネスロー国際卓越大学院プログラム協賛)にて、シンポジウム「法の支配のデジタル化 ~Agile Governance, Data Free Flow with Trust, Value of Statistical Life, Regulatory Sandbox~」が開催された。

 

1 Opening Remarks

 シンポジウム開会にあたり、法政策共同研究センターの土井真一センター長から開会の辞が述べられた。土井センター長は、法政策共同研究センターの設立目的と主な活動についての紹介と、本シンポジウムの開催趣旨についての説明を行った上で、最後に、若手研究者に対して、最先端の課題に積極的に関心を持ち、議論することを期待すると述べて挨拶を締めくくった。

 

2 Agile Governanceと法のDigital Transformation

 シンポジウムでは、まず、東京大学未来ビジョン研究センターの西山圭太客員教授と、京都大学大学院法学研究科の羽深宏樹特任教授による対談形式で、「Agile Governanceと法のDigital Transformation」のテーマについてさまざまな議論が交わされた。対談では、「法」のDXが具体的にどのようなものであるかを明らかにした上で、特に、技術が社会にどのように広がっているかと、それに対するルールの対応について議論がなされた。技術と社会制度との共進化を目指し、法とデジタル技術との最適な組み合わせを実験的に模索し続ける「アジャイル・ガバナンス」が一つの方策であることが指摘された。

 

3 VSLDFFT

 次に、デジタル庁企画官の目黒麻生子氏と、京都大学大学院法学研究科の稲谷龍彦教授(本センター「人工知能と法」ユニット・ユニットリーダー)により、「信頼性のある自由なデータ流通(Data Free Flow with Trust, DFFT)」と「統計的生命価値(Value of Statistical Life, VSL)」をテーマに、報告と討論が行われた。
 目黒氏からは、「国際データガバナンス形成に向けた取組」と題して、国際データガバナンスにおいて日本政府が取り組む「信頼性のある自由なデータ流通(DFFT)」について報告が行われた。
 稲谷教授からは、「VSLとその『法』の支配における位置付けについて」と題して、デジタル技術によって機械に人間の判断・行動が代替される際に必要なフレームワークとしての「統計的生命価値(VSL)」に関する議論について報告が行われた。
 最後に、会場参加者からの質問も交えつつ、両氏の間で議論が行われた。

 

4 法の支配のデジタル化

 続いて、「法の支配のデジタル化」をテーマに、東京大学大学院法学政治学研究科の宍戸常寿教授と、京都大学大学院法学研究科の山田哲史教授(本センター「医療と法」ユニット・ユニットリーダー)により、報告と討論が行われた。司会は稲谷教授が担当した。
 まず、宍戸教授の報告では、アジャイル・ガバナンスをめぐる議論は、法の支配の概念を通じてこれまでの日本のガバナンスのあり方が議論されてきたという流れを汲んでいることが確認された上で、アジャイル・ガバナンスは、法の支配を掘り崩すものではなく、むしろ、法の支配と順接し、よりよき法の定立、執行、統制への道を開く可能性を有するものであると述べられた。
 次に、山田教授の報告では、①アジャイル・ガバナンスの基本発想は反設計主義的なある種の古典的な法の支配の理解との間に一定の親近性があること、②国家がなお一定の規律責任を負うのであればその責任はどのようなものか、また、私的な組織にその責任を課すことはどのようにして許されるのかについて、従来の公法的規律の応用と妥当範囲の画定を進める必要があることが指摘された。
 その後、宍戸教授、山田教授、稲谷教授による討論が行われ、司法におけるアジャイル・ガバナンスについて議論がされた。質疑では、政府とマルチステークホルダーの間の信頼関係をどのように演出するのかが問われた。

 

5 サンドボックスとデジタル時代の規制改革

 最後に、内閣審議官の中原裕彦氏と、プロトタイプ政策研究所の落合孝文所長により、「サンドボックスとデジタル時代の規制改革」というテーマで報告・討論がなされた。
 デジタル化及び人口減少に伴う構造変化が効率や生産性の向上を求めるという現実に向き合うために、デジタル技術の利活用やイノベーション促進を念頭にした性能規定化や官民の主体の連携、主体的な取り組みなどの重要性が論じられ、サンドボックスの取り組みもこの意味において不可欠であることが確認された。加えて、現在の技術水準や既存の産業を前提にした法制度がイノベーションの障害となっている中、いまの社会に起きている変化を踏まえ、不明確な規定についてのアカウンタビリティの確保の問題や、ソフトローの可能性を再考する必要があると指摘された。

 

6 End Remarks

 閉会にあたり、渥美坂井法律事務所プロトタイプ政策研究所の落合孝文所長より閉会の辞が述べられた。落合所長は、各テーマの議論内容を振り返り、会議が成功裡に終わったとの評価を示した後、主催者および参加者に感謝の意を表し、挨拶を締めくくった。