京都大学大学院法学研究科附属 法政策共同研究センター

menu

日独公法学セミナー『新型コロナ対策の日独墺比較』

  • 研究ユニット:環境と法
  • 開催日時: 20211023日(土)14301800
  • ユニットリーダー:原田大樹教授
  • 作成者:住永佳奈(特定研究員)

概要:
日独公法学セミナーを当センターの環境と法ユニットが主催し、ドイツ語圏における新型コロナ対策の状況やその法理論的課題について、高橋大作・在オーストリア日本大使館 一等書記官、横田明美・千葉大学大学院社会科学研究院准教授、山田哲史・岡山大学学術研究院社会文化科学学域・法学部准教授の各氏による報告および、それら報告をもとにした議論が行われた。法学系のみならず、文系・理系の幅広い分野の研究者・実務家等約60名が参加した。日独公法学セミナーは、ドイツ・フンボルト財団及び日本フンボルト協会の支援を受けて、日本の公法学(憲法学・行政法学)の若手研究者を主たる対象に研究交流を行うプログラムである。

1.各報告の要旨について
「法的観点から見たオーストリアの新型コロナ対策」

報告者:高橋大作氏(在オーストリア日本大使館 一等書記官)

・オーストリアにおける、新型コロナ発生時の法的対策として、それ以前からあった1950年感染症法を根拠とする保健省令および、新規に立法された特別措置法が紹介され、それらを根拠とする集会規制や営業規制についての説明が行われた。

・憲法裁判所判決において、保健省令のうち外出規制を定める規定が法律による委任の範囲を超えるため違法であると判示されたこと、および、その判決をうけて措置法が改正され、法律による委任の範囲が精緻化されたことが紹介された。

・日本法と対比したオーストリア法の特色として、法制度を徐々にブラッシュアップしていく点、すなわち、緊急時には速やかに対策を打ち、裁判による事後的コントロールを行うというあり方が示された。

「ドイツにおけるCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)への立法対応」

報告者:横田明美准教授(千葉大学大学院社会科学研究院)

・ドイツにおける立法対応の特徴として、頻繁かつ横断的な法改正や時限立法、「延長法」による改正が挙げられた。また、規制の実態として、感染症予防法の体系、改正の沿革および、同法28a条第1項が定める規制の「カタログ」が紹介された。

・同法32条に基づき、感染防止措置は州へ委任できるとされており、州政令が規制の内容を決定していることが説明された。

 ・「COVID-19パンデミック下での議会の役割」

報告者:山田哲史准教授(岡山大学学術研究院社会文化科学学域・法学部)

・日本における新型コロナ対策の立法対応として、特措法31条の2が定める「まん延等防止重点措置」の導入により、命令の公表の根拠が明確化されたことが述べられた。その一方で、行政処分たる命令を受ける者への意見聴取等の事前手続がない、協力要請等の要件や内容が不明確であるといった難点が挙げられた。

・日本では、迅速で実効的な救済の仕組みがないため規制が緩やかにならざるを得ないこと、また、救済の仕組みがないならば、法律により強い規制を行っても問題が大きくなるだけであることが指摘された。

・ドイツでは、規制については政令への委任が粗く行われたが、補償については積極的に行われた旨が紹介された。また、法律は、一元化した立法のやり直しや、行政へ委任した結果のチェックなど、枠付としての役割を果たすようになるのではないかとの考察が示された。

2.ディスカッションについて

報告をうけて、質疑応答とコメントが行われた。出された質疑は、主に以下のとおりである。

・行政機関が制定する命令について議会の同意が必要とされていることおよび、学術機関が示す基準が行政権限の発動要件に組み込まれていることについて、議論はあるか。連邦と州との首脳会議について、憲法または法令上の根拠はあるか。

・連邦と州との競合領域である問題について、連邦法で州保健省に執行を委任する一方で、連邦・州首脳会議を行っているという状況であるが、政治的問題と法的問題がどう関係しているのか。

・ワクチンの接種義務を、統合や連帯といった国家論の中で検討する余地はあるか。

・オーストリアにおける国民議会の本委員会の位置付けはどのようなものか。

・法律で枠を決定し、行政が執行し、事後的に統制を行うというあり方の中で、議会の役割をどう位置付けるか。日本の特措法249項との比較で,本質性理論の意義や効果はどのようなものか。

・ワクチン接種義務の導入の動きはあるか。接種義務を課すことに憲法上の問題はあるか。

・ロックダウンは比例原則違反ではないか。許される外出規制があるのではないか。