環境と法ユニット 2022年度第3回研究会「Aktionenrechtliche Perspektive auf das Verwaltungsrecht – Relevanz für das Umweltrecht –(行政法に対するアクチオ法的視点―環境法への意義―)」
研究ユニット:環境と法
開催日時:2023年3月15日(水)13時~15時
ユニットリーダー:原田大樹
作成者:田中悠美子(センター特定助教)
概要:
2023年3月15日、京都大学大学院法学研究科附属法政策共同研究センター・環境と法ユニットが主催する2022年度第3回研究会が開催された。本研究会では、まず、Johannes Buchheim氏(マールブルク大学教授)より、「Aktionenrechtliche Perspektive auf das Verwaltungsrecht – Relevanz für das Umweltrecht –(行政法に対するアクチオ法的視点―環境法への意義―)」と題する報告が行われた。その後、質疑応答の時間が設けられ、充実した議論が行われた。なお、本研究会は対面方式で実施され、栗島智明氏(埼玉大学准教授)が通訳を担当した。
報告内容:
I. アクチオモデルの整理とその核心的要請:
報告者が主張するアクチオモデル(Aktionenmodell)は、実体行政法、行政手続法及び行政訴訟法の相互関係に関するテーゼであり、行政訴訟法の実体法に対する強い付従性を主張する学説上支配的なテーゼ(請求権モデル(Anspruchsmodell))と対置される。ある特定の問題が法秩序の中でどのように規律されるかは、実体的な諸基準、行政手続法及び行政訴訟法を相互に結び合った形で考察することによってはじめて明らかになる。
II. アクチオモデルの出発点における考察:
支配的な見解は、行政訴訟法をすでに存在する実体的な規律の訴訟法上の前提を創出するものと捉えながら、同時に、このような訴訟法の付従性に数多くの例外を認めている。支配的な見解のアプローチには疑問がある。
III. アクチオ法的視点に対する根本的な批判:
アクチオ法的視点に対しては、様々な根本的な批判がなされている。しかし、そのいずれも、訴訟法の強い付従性を基礎づけることはできない。
1. 裁判官の過度な自由
アクチオ法的なアプローチをとった場合、裁判官に過度な自由が認められるという批判がある。しかし、ここで問題となっているのは、むしろ、訴訟法が実体法から独立して法律関係を規律することができるのか、及び、どの程度できるのかという問いである。この問いは、裁判官による法の継続的形成の限界の問題である。
2. 権利保護システムの主観的性格
支配的な見解の思想的な父であるHans-Heinrich Ruppによれば、抗告訴訟は、それが実体的な取消請求権に基づくものであるということを前提としなければ、主観的権利を追求する訴えではない。しかし、実体的な請求権を規範定立的または法的な強制権限という意味における「法的な力」を付与するものとして考えることはできない。このことを説明する例として、不作為請求権に対応する行為義務が履行されるかどうかは、請求権を行使する者の「力」ではなく、請求権を行使された者の意思に左右されることが挙げられる。
3. 訴訟法の一般的な付従的性質
支配的な見解は、訴訟法は付従的性質を有していると主張する。しかし、訴訟法と実体法の関係の問題は、実定法上の問いであり、一般的又は理論的に答えることはできない。また、訴訟法が単に付従的性質を有するだけであるならば、訴訟法は常に実体法の鏡像となり、訴訟法を作る必要はない。しかし、そのような考え方を提唱する者はいない。したがって、訴訟法の特殊な合理性と形態を認める必要がある。訴訟法の特殊な合理性と形態は、裁判所の資源が希少であることや労務提供義務のような一定の義務は執行が困難であることから生じる。
4. 訴訟と行政手続の間の権限分割
裁判所の手続と行政の手続が分かれていることは、訴訟法が付従的な役割を果たすことを要求しない。
5. 民事法的に特徴づけられた当事者訴訟へのはめ込み
行政訴訟法が付従的な役割を果たすという説明は、行政訴訟法が民事訴訟に似た形で作られたということを根拠になされることがある。しかし、私的自治を基本的な主題とする民事法的な考え方は行政法には適合しない。
IV. アクチオモデルを支持する論拠:
アクチオモデルを支持する重要な論拠は、特定の問題について訴訟法を通じて規律するという政治的意思である。また、アクチオ法的な再構成は、従来の支配的な見解よりも単純である。なぜならば、支配的な見解によれば訴訟法に実体的な請求権や権限を対応させなければならなかったが、それらが存在しなくても訴訟法だけで足りるからである。多くの場合、実体法上の対応物は実定法には存在していない。さらに、アクチオモデルは、行政法の歴史的・実務的な形成にもより合致したものである。
V. 環境法にとってのアクチオ法的視点が有するアクチュアリティ:
とりわけ環境法において、数十年にわたって、手続は奉仕的機能しか有しないのかが争われてきた。環境法における法の形成は、実体法的な基準ではなく訴訟法的な基準を定めることによってなされることが多かった。このことはアクチオモデルの正当性を示していると考えられる。
主観的権利に着目するアプローチをとることによって、特定の法内容の実現が困難になることがある。例えば、自然の主観的権利や環境団体の訴権が認められるのかといった議論がこの問題を示している。アクチオ法的なアプローチは、この問題を議論する際に役に立つ。
質疑応答:
・ドイツでは請求権モデルが支配的であるにもかかわらず訴権に着目したのは何故か。訴権に着目して行政法の理論をどの程度変更しようとしているのか。
・実体法と訴訟法の分離は、行政法においては、民事法におけるそれとは異なり、法治国家原理との関係で特殊な意味がある。訴訟法の自律を認める場合、動態的に活動する行政と静態的に統制する裁判所という二分法を緩めることになると考えられるが、統制はどのような形でなされることになるのか。
・アクチオモデルをとった場合、厳密な請求権モデルをとる場合よりも裁判官の法創造の裁量は広くなるのか。広くなるとすれば、その裁量を統制する法規範は実体法なのか訴訟法なのか。
・ドイツにおいて、環境団体訴訟は客観訴訟として作られているが、実際には、主観的権利の侵害や実体法の違反がないと救済がされないのではないか。アクチオモデルをとった場合には、それらがないと救済されないという実務は変わり得るのか。