京都大学大学院法学研究科附属 法政策共同研究センター

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環境と法ユニット 2022年度第1回研究会「海洋ガバナンスの法的課題と展望」

研究ユニット:環境と法
開催日時:2022年9月10日(土)13時~15時30分
ユニットリーダー:原田大樹
作成者:髙橋侑生(特定研究員)

概要:
京都大学大学院法学研究科附属法政策共同研究センター・環境と法ユニットが主催する2022年度第1回研究会が、9月10日(土)に実施された。Zoomを利用したオンライン形式で開催され、学内外から幅広い分野の研究者が多数参加した。なお、同研究会は「科研基盤A グローバル法・国家法・ローカル法秩序の多層的構造とその調整法理の分析」との共催である。研究会においては、まず、西本健太郎教授(東北大学法学研究科、国立極地研究所国際北極環境研究センター)より、『海洋ガバナンスの法的課題と展望』と題する報告がなされた。その後、この報告にかんして、1時間程度の充実した質疑応答が行われた。

報告について:
西本健太郎教授による報告『海洋ガバナンスの法的課題と展望』の要旨は次の通りである。

・本報告は、主に国際法の観点からみて、海洋における人間の活動がどのように規律されているのか、そして、現状の規律にはどのような課題があり、それに対してどのような対応が試みられつつあるのかを検討するものである。

・これまで、海域では、歴史的に陸域とは異なる特徴をもつ国際法秩序が形成されてきた。というのも、海洋においては、「異なる国家が全面的に権限を行使できる範囲を決めるという方式」では国家間の利害を調整することができなかったからである。そこで、国連海洋法条約(1982年)によって確立した秩序においては、人間の活動に対する機能的な規律が主軸となった。現状、距離に応じて海域を区分することで、沿岸国と他国とに権利・義務が配分されている。また、国際的な規律のための規則や基準が、海運や漁業などの分野ごとに異なる機関によって作成されている。

・昨今、海洋環境の保護や生物多様性の保全の必要性、海洋の利用形態の多様化などを背景として、従来の海域的・分野的なガバナンスの限界が問題視されている。現状、海洋環境の保護・保全は、分野ごとの縦割りの規制を通じて実現されている(ただし、地域的条約が締結されている場合もある)が、こうしたガバナンスのあり方について、例えば、距離に基づく人為的な海域設定と管理対象の不整合、分野別の規律における俯瞰的な視点の不存在、海洋の利用密度の増加による活動相互間の調整の必要性が指摘されている。

・こうした海洋ガバナンスの課題を克服するために、生態系アプローチ(ecosystem approach)の必要性が指摘されている。これは、個別の活動に着目した規律だけではなく、それらによって影響を受ける生態系に着目した管理を行わなければならないという考え方である。こうしたアプローチを通じて従来の課題を克服することは、国際社会のアジェンダになっている。 ・国家管轄権内の海域では、国際法の枠内で、国内法を通じた総合的な管理の実現が探求されている。その点、一定の場所・空間に着目した管理のためのツールの活用が重要だと考えられる(「海洋保護区」の指定、「海洋空間計画」の策定など)。海域の特性や科学的知見を踏まえて、どのように国内法制度を設計し、分野横断的な規律を実現しうるかが問われている。日本においては、海洋基本法(2009年)が制定され、総合的な海洋政策が推進されている。もっとも、EEZの管理法制にかんする議論は十分に進展しているとは言えない(もっとも、自然環境保全法の改正、再エネ海域利用法などは、課題はあるとはいえ、重要である)。

・国家管轄権外の海域では、公海の自由が存在する中での総合的な管理の実現が模索されている。現在、国家管轄権外区域の海洋生物多様性(BBNJ)の保全と持続可能な利用にかんする条約の作成・交渉が進行中である(国連海洋法条約には生物多様性を正面から扱う規定は僅かであり、その後に合意された生物多様性条約は主として国家管轄権内に適用される)。BBNJ協定と既存の世界的・地域的・分野別の枠組みとの関係が大きな問題となる。

・海洋の捉え方は、開かれた空間から総合的な管理の対象へと変化しつつあると言える。

質疑応答について:
上の報告に対して、次のような質問が寄せられた。

・国連海洋法条約とEEZ・大陸棚法は理論的にどのような関係にあるのか。

・EEZ・大陸棚法に定められた政令での整理・調整として、どのようなものが考えられるか。

・国際法におけるフラグメンテーションの問題と、海洋管理における縦割りの問題は、どのように関連しているのか。 ・陸域における統合的な環境保護と海域における生態系アプローチは、どのように関連しているのか。

・海洋管理の拡大において公海の自由はどこまで縮減するのか。

・海洋固有の特性を踏まえた総合的な管理ツールとしてどのようなものがあるか。

・国家管轄権外において環境影響評価が必要になる活動としてどのようなものが考えられるか。

・国家管轄権外における環境影響評価の統一的な基準について合意することができるのか。

・BBNJ協定において国家管轄権内/外のあいだの連携はどのように想定されているのか。