京都大学大学院法学研究科附属 法政策共同研究センター

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「人工知能と法」ユニット公開研究会~AIとガバナンス、法~

講師                         西山圭太       東京大学未来ビジョン研究センター客員教授
                                                    
株式会社経営共創基盤シニア・エグゼクティブ・フェロー

講演名                     AIとガバナンス、法」

研究ユニット            「人工知能と法」

ユニットリーダー       稲谷龍彦   京都大学法学研究科教授

開催日時                   2021128日(水)13:00 – 15:30

開催方式                   実会場及びオンラインでのハイブリッド形式

会場                        京都大学百周年時計台記念館  国際交流ホール

出席者数                   実会場       50

                                  Web参加   35

議事録作成者            青山和志(センター特定研究員)

概要 

「人工知能と法」公開研究会が、2021128日、京都大学百周年時計台記念館国際交流ホールにて開催された。本研究会ではゲストスピーカーに、東京大学未来ビジョン研究センター客員教授/株式会社経営共創基盤シニア・エグゼクティブ・フェローの西山圭太氏をお招きし、DX(デジタル・トランスフォーメーション)による社会のデジタル化を、ガバナンスと法の観点から論じていただいた。なお、公開研究会は実会場とオンラインのハイブリッド形式で行われた。

報告要旨 :

AIとガバナンス、法」と題して、下記の五つの論点をめぐって報告が行われた。その後、報告に基づき西山氏と講演参加者の間で質疑応答の時間が設けられた。

① DXとは何か

  • DXの核であるデジタル化は、「原理の抽象化」によって、サービスを共通要素ごとに同一のレイヤーへと組み替えるものである。
  • 従来、企業や政府・自治体は、縦割りの組織構造に由来する「ハコ」ごとに業務を実施していた。対照的に、来るべきDX社会では、固定的な役割が与えられたハコではなく、類似する業務のレイヤーごとに組織横断的な管理・運用が行われる。
  • デジタル化の進行が、社内組織や法律といった物理社会の側面に影響を及ぼすのは必至であり、企業や政府・自治体は、多層化するレイヤー同士の関係性に目配せしながらガバナンスを構築することが求められる。

② DXに人はどのように関わるべきか

  • デジタル化により製品やモノを提供する組織の境界が融解すると、顧客はUI(ユーザー・インターフェース)を通じて、個人に最適な形でサービスを組み合わせることができるようになる。このようなシームレスでカスタマイズ可能な経験がUX(ユーザー・エクスペリエンス)である。
  • 経営者は、顧客が求める健康やエコといったニーズを抽象的な次元で捉え直す必要がある。次に、抽象化された価値を、想定される具体的状況に落とし込み、横繋ぎに結ぶことで顧客のUXを高めることが求められる。
  • 市民社会の観点からは、デジタルツールを活用した市民参加により、都市設計などで市民のUXが最適化されうる。

③ AIをどのように捉えるべきか

  • 近年急速に発達しつつあるAI(人工知能)は、人間の脳の仕組みを模倣しつつ、人間には必ずしも理解できないレイヤー構造やパターンを発見する(ディープ・ラーニング)。
  • 今後、人間の論理を教えるのではなく、学習の仕方のみを教え込むことで、人間の論理で到達できない非構造的なデータの解析が期待される。
  • 他方でAIの発達は、「知能とは何か」といった人間に対する本質的な問いも投げかけている。

 ④ ガバナンスの課題は何か

  • 「データとソフトウェア、AIによってあらゆるシステムが制御されつつある事態」に対応するための構想が「ガバナンス・イノベーション」である。ガバナンス・イノベーションは、ペーパーレス化やセキュリティ保護といった単なるデータの利活用・管理ではなく、デジタル公共空間の信頼性や安全性をどう保証していくかという包括的な課題を設定している。
    • “Governance by Innovation” ”Governance for Innovation” “Governance of Innovation”3つの柱
  • 政府のデジタル化を実現するためには、デジタル技術を活用した政府経営改革が必要である。すなわち、目の前の具体的な業務をデジタル化するのではなく、アーキテクチャ・レベルで政府のカタチそのものを変革する必要がある。そのためには、縦割り行政をレイヤー構造へと変換し、アルゴリズムで政府を動かす発想が求められる。

  ⑤ 法が問われていること

  • デジタル技術の発展は、「法」の考え方にも変容を迫る。規制領域の捉え方がデジタル化するとともに、法律の適用もAIによる学習と管理の対象となりうる。
  • 従来の法システムは人間を責任主体として想定してきた。しかし、DX社会では、AIによるリスク判断を人間が必ずしも了解できない可能性がある。このとき、「人間が十分に検討したか」よりも「AIに十分学習させたか」が法的に問われることになるだろう。
  • 全体としてガバナンスがプロセス的になり、人間の判断が以下のような点で求められることになると考えられる。
    • 法の目的に照らしてリスクを設定する
    • 事実認定に用いるデータ収集プロセスを適切に構成する
    • AIによるリスク判定のシミュレーション結果を市民にわかりやすく開示する

 質疑応答:

   報告終了後の質疑応答では、「デジタル化が法理論と法実務の将来にどのような影響を与えるか」を中心に議論が交わされた。

   法理論については、AIの介在によって法領域がさらに抽象化し、分野横断的になる可能性が提示された。他方で、法実務に関して、DX社会でも契約法など人と人との関係を規定する法律が果たす役割は大きいと考えられ、基礎法を学ぶことの重要性が説かれた。