京都大学大学院法学研究科附属 法政策共同研究センター

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「人工知能と法」ユニット公開研究会―Governance Innovation & Beyond: Society 5.0における新たなガバナンスシステムを考える―

研究ユニット:人工知能と法

開催日時:2021年9月30日(木)13:00~15:00

ユニットリーダー:稲谷龍彦教授

作成者:鄭燦玉(センター特定研究員)

概 要

  人工知能と法ユニットにおける初の公開研究会が9月30日にオンライン(Zoom)で開催された。本研究会には、センタースタッフをはじめ、学内外の研究者が多数参加し、大変活況を呈する会となった。まず、本ユニットリーダーの稲谷教授より、「Society 5.0における新しいガバナンスシステムとサンクションの役割」と題した報告が1時間程度行われた。報告のあとは、質疑応答の時間も設けられた。  

報告内容

  報告の内容は概略こうである(9月7日に開催された「ZU-KU Online Meeting on AI Policy」での同教授による第1報告と内容的に重なる部分が多いように思われるので、該当の議事録の内容も適宜参照のこと)。

○日本は、「サイバー空間とフィジカル空間が高度に融合したシステム」(サイバー・フィジカルシステム:CPS)によって、経済成長の実現と社会的課題の解決を両立させる社会(Society 5.0)の実現を目指している。このCPSでは、様々な提供者によるシステムが接続され、さらに大きなシステムとして機能するようになる(System of Systems:SoS)。

○だが、事前にルールや手続が固定された従来のガバナンスモデルでは、CPS-SoSが必然的に生じるリスクと不確実性に対応することが困難である。つまり、事前の行為規制や単純な規制緩和といった現行法の発想には限界がある。そこで、ゴールや手段が予め設定されている固定的なモデルではない、より適切なガバナンスを確保することが不可欠になる。

○CPS-SoSが生じるリスクと不確実性に対応するべく、経産省の『Governance Innovation』報告書では、垂直的・静態的な法制度から水平的・動態的な法制度へと規制手法を転換することが提言されている。製品やサービスを供給する企業⾃⾝には、適切にリスクとイノベーションをバランスしていくことが求められる。

○CPS-SoSがもたらすリスクと不確実性に対応し、⼈々の「幸福追求」の保障というガバナンスのゴールをより良く実現するためには、組織的な学習および知識創造・実践を促す新たなガバナンスモデル(アジャイル・ガバナンス:Agile Governance)の実践が必要である。このアジャイル・ガバナンスにおける「サンクション」には、⑴ステークホルダー間での知識・情報の共有促進と機会主義的行動の抑止を両立させるよう、ソフトローとハードローを最適に組み合わせた認証制度の創設、⑵適切なデータガバナンスに関する法制度の整備、⑶厳格責任と過失責任のベストな組み合わせによる責任あるリスクマネジメントの内部化、⑷訴追延期合意(Deferred Prosecution Agreement:DPA)に代表されるインセンティブ整合的な制裁制度の設計・活用などが求められる。

その他

  質疑応答の時間には参加者から多くの質問がなされ、とりわけ、計算不可能な不確実性への対処方法に関する制度設計や巨大リスクに応じた補償態勢の整備、幸福追求の再解釈といった問題をめぐり活発な議論が交わされた。

  今後の研究会の開催については、原則、3か月に1回程度のペースで行う予定である。次回は、外部ゲストを参加させた形での開催も検討中である。

以上